こんにちは、池上校講師の木村美那子です。 自分が「先生」という肩書きをいただいた日に、自分の師から言われた言葉があります。 「バレエを教えるだけなら、誰でも出来る。人を育てることが出来るようにならなければならない。」 これまでもお伝えしてきたように、バレエはその形が整ってから400年以上もの間、(医学や科学の発達によりテクニックなどの強度や、上演の技術は向上してきましたが)求められる美しさや目指す正解、いわゆる「バレエのイデア」は大切に守られてきました。 ですから、個人的な感性としての「好きか嫌いか」についての自由はありますが、「美しいか、美しくないか」、「正しいか、正しくないか」、「良いか、良くないか」がはっきりしていますし、だからこそ「バレエを教えるだけなら、誰でも出来る」と言われるのかもしれません。 もちろんその「バレエのイデア」は簡単に手に入るものではありませんし、それを他の人に伝えて、正確に実施してもらうこともとても難しいものです。 また「先生」と言う肩書きをいただいている以上、「バレエの世界で<先に生きている>人」として、常に自身の在り方に(良い意味での)疑いの目を向けて、「より良い」指導を手渡せているかどうかを見つめていなければなりません。 今回の記事では、その一回り外側の「子どもクラスと大人クラス」をどのようにとらえているかを、少しだけお話してまいります。 木村はバレエをお料理に例えることが多いのですが(以前にもオムレツのたとえ話をしたことがありますね)、これもお料理のお話でお伝えしたいと思います。 まずは大人の方にバレエを手渡す時ですが、大人の方にはそれまでの体験してきたことや、感じたこと、学んだこと、知っていること等が心身に積み重なっていて、それはその方のアイデンティティでもありますから、それらを大切にしていくことを念頭においています。 それはたとえば、木村が「オムレツを作る際には、たまご2個に対して、加えるミルクは50ccが美味しい」と思っていても、「70ccの方がフワッとする」と感じる方もいらっしゃいます。 また、「○○を少しだけ入れる」とか、泡立て方などについて、木村のまだ試したことのない方法を知っている方もいらっしゃいます。 そのような相手に頭ごなしに「木村のオムレツの作り方」を押し付けても、お互いに良い気持ちがしない上に、「より美味しいオムレツ」の可能性は消されてしまいます。 それらをふまえた上で、改めて共有すべきは「なぜより美味しいオムレツを作るのか?」ということです。 それは「お料理を召し上がる方に<美味しい>と思っていただきたい」から、ということになりますね。 バレエにあっては、そのために専門家である「先生」は、自分の中にある知識や経験をフル稼働させて、より良いクラスやワークを手渡しますし、生徒の皆さんにはそれらにトライしつつ、「先生」を刺激するような「何か」をさらに共有しながら、より良いバレエに手を伸ばして行ければと思います。 一方、子どもたちにバレエを手渡す場合には、体験や知識の部分への書き込みが少ないからこそ、「先生のバレエ」がどれだけ影響力を持つかをしっかり自覚して、クラスを行うことを心がけています。 先に書いたように、常に自身の指導方法や内容、また声掛けの仕方や、修正する際の手の触れ方にいたるまで、振り返り、最適化出来るように気を配るのです。 これはお料理で言えば、はじめて食べるオムレツが美しくなくて、化学調味料だらけで、盛り付け方も雑で、そしてそもそも美味しくなければ、「オムレツとはそういうもの」という書き込みがされてしまい、その人の「オムレツのイデア」は、その後ずっと「良くないもの」として定着して、もしそれを他の誰かに伝えるようなことがあれば、正しくない「オムレツのイデア」がひろまってしまうことになるのです。 これは、味覚やバレエだけでなく、立ち居振る舞いや、ものの考え方など、その人の「生き方」にも大きな影響を及ぼしますから、時間がかかってでも、手間がかかってでも、より良いイデアを手渡したいものですね。
おまけ:こちらの写真は木村がクラスを担当させていただいているお稽古場の一部です。ありがたいことにたくさんのご縁をいただいておりますが、今春からさらに加わった池上バレエスクールも含めて、今まで以上にしっかりと「より良いバレエのイデア」をレッスンで共有していければと思っております。(木村)
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こんにちは、池上校講師の木村美那子です。 まずはこちらの写真をご覧ください。 これをバレエ用語で説明すると、次のようになります。
「1stポジションのドゥミ・プリエ、右手をア・ラ・セゴンから横にカンブレ、右足を横にタンデュ、最後にドゥミ・プリエ」 声に出して読んでもわずか12秒ですし、この動きに合うレッスン曲(ゆったりとしたプリエの音楽)で実施しても60秒もあれば十分に足ります。 これを子どもたちに伝える時に、木村は200秒ちかく、つまり3分以上かけます。 びっくりする方もいらっしゃるかもしれませんね。 以前に「お手伝いのすすめ」でお話したように、子どもたちの情報の受容出来る量や範囲はかなり限られていますし、またその受容した情報を取捨選択する段取りも未発達です。 そのため、まずは実施する速度の2倍程度の時間をかけて、動きを視覚でとらえることに集中して覚えます。 次に、先に示したような「言葉での説明」を加えながら動きを整頓していきます。 その次に、今度は先生は動かずに、子どもたちが順番を「言葉で説明」していきます。 その際も、全てを言うのではなくて、先生との問答のように「次は何をどうする?」「右足を横にタンデュする」「何回かな?」「1回!」…と確認していき、そこでようやく音楽がスタートするのです。 バレエでは特に、身体の各パートに関する感覚、方向感覚、空間認知感覚は、子どもたちの「動けること」と平行して、きちんと整頓をしていく必要があります。 それは「回れるけれど行き当たりばったりな感じがする」、「跳べるけれどポジションがばらばら」、「脚はあがるけれど身体がつられてぐらぐら」…では、どのような時にも立ち居振る舞いの奥に必ず品格を含ませることを大切にしている「バレエ」からは離れていってしまうからです。 また、ポジションが正確なだけでは「私・昨日・行く・遊園地・乗る・ジェットコースター・楽しい」と話す感じで、どれだけその単語ひとつひとつを正確に発音出来ても、文章になっていませんし、相手にはその言葉しか伝わりません。 「私は昨日、遊園地に行って、ジェットコースターに乗りました。とても楽しかったです!」と伝えるには、以前の記事でもお話したように、たとえレッスンのムーブメントであっても「おしゃべりをするようにバレエを」することを心がけることが大切なのです。 お話をする時に緩急や強弱がつくように、シンプルに見えるバレエのレッスンでも、そのムーブメントの流れは単調なものではありません。 そしてそれを導くためにレッスン音楽があり、先生たちはいつでも丁寧に数あるレッスン曲の中から、動きと目的、そしてニュアンスなどがきちんと伝わり、子どもたちがそれらを身に付けられるように工夫しているのです。 もしそうでなければ、単純にポジションだけを覚えるのであれば、音楽はもはや「いらないもの」になってしまいますし、メトロノームでレッスンしても変わらない…というものになってしまうでしょう。 「そんなにじっくり伝えていたら、子どもたちは飽きてしまうのではないですか?」と聞かれることがありますが、今まで担当してきた生徒さんの中では、そのようなお子さんはいませんでした。 子どもたちの「やる気スイッチ」がうまく入り、「集中力のギア」が入れば、大人の心配は杞憂に変わるのかもしれませんね。(木村) |